帰 郷

柱も庭も乾いてゐる

今日は好い天気だ

縁の下では蜘蛛の巣が

心細さうに揺れてゐる

山では枯木も息を吐く

あゝ今日は好い天気だ

路傍の草影が

あどけない愁みをする

これが私の故里だ

さやかに風も吹いてゐる

心置なく泣かれよと

年増婦の低い声もする

あゝ おまへはなにをして来たのだと……

吹き来る風が私に云ふ

『山羊の歌』より


Chūya Nakahara (中原中也)